「なぜ、人類はもう月に行かないのか?」
子どもの頃、夜空を見上げながら「月には何があるんだろう」と想像を膨らませた記憶がある人も多いはずだ。アポロ計画の映像をテレビやネットで見て、「あの頃の人類、すごかったな」と驚いたことがある人もいるだろう。
だが、ふと不思議に思わないだろうか。人類は1972年のアポロ17号を最後に、一度も月に降り立っていない。あれから実に50年以上。技術は進歩したはずなのに、なぜ“あの場所”に戻っていないのか?
今回は、その理由を政治・経済・技術という3つの視点から紐解きつつ、意外と知られていない宇宙開発の裏話や雑学も交えて、月という遠くて近い存在に再び思いを馳せてみたい。
まずは、なぜ人類は月に行かなくなったのか?
理由のひとつは、シンプルに「お金」だ。
アポロ計画全体にかかった費用は、2023年換算でおよそ25兆円。これは当時のアメリカのGDPの約4.5%に相当する。今の感覚で言えば、「国の予算を丸ごと宇宙にぶっこんだ」といっても過言ではないスケールだ。
「そんなに使って、何を得たの?」という問いに対し、明確な答えが出しにくいという現実がある。もちろん、科学的には大きな成果があった。月の岩石の分析、生命存在の可能性、宇宙放射線の影響研究…。しかし、それは国民が日常で実感できるような成果とは言い難い。
当時は「ソ連に勝つため」という、冷戦時代特有のプロパガンダ的価値があった。アメリカにとっては、宇宙での勝利が国家の威信を示す最大のカードだった。しかし、冷戦が終わった今、「行く意義」は問われるようになったのだ。
事実、NASAの予算は1966年のピーク時、国家予算の4.4%を占めていたのに対し、現在は0.5%以下にまで落ち込んでいる。これは、政治的な優先順位が変わった証でもある。
そして次に、「政治」の視点だ。
アポロ計画が終わったあと、宇宙開発の中心は「国同士の競争」から「国際協力」へとシフトした。特に注目すべきなのが、国際宇宙ステーション(ISS)の存在である。アメリカ、ロシア、日本、ヨーロッパなど、多国籍での共同運用が進められ、月よりも低軌道での長期滞在技術に注力されるようになった。
また、もうひとつ見逃せないのが「技術の断絶」だ。
アポロ計画時代の技術者たちは、スペースシャトルや他のプロジェクトに移行し、月面着陸用のノウハウは組織の中で分散されてしまった。着陸船「LEM」の生産ラインも解体されてしまい、今となってはあの時代の設計思想をそのまま再現するのは難しいという。
「なんで再現できないの?昔より技術は進んでるんでしょ?」という疑問はもっともだ。だが、アポロ計画では「多少のリスクは目をつぶっても成功を優先する」という姿勢があった。1960年代の宇宙開発は、良くも悪くも“無茶ができた”時代なのだ。
例えば、アポロ11号に搭載されたコンピューターは、2MHzのクロック速度にわずか4KBのメモリという性能。今どきの電卓以下だ。しかし、それでも人類を月に送り届けた。逆に言えば、今の宇宙船は安全性・正確性を求められるがゆえに、軽量・簡素な設計がしづらくなっているのだ。
では、これから先も月に行かないのか?いや、実は動き始めている。
その代表格が「アルテミス計画」だ。アメリカは再び月を目指し、2025年にはアルテミス3号で人類を再び月面に送る予定だ。今回は初の女性宇宙飛行士も含まれる予定で、時代の変化を感じさせる。
この計画では、「オリオン宇宙船」とSpaceXが開発する「スターシップ」を併用し、月面への着陸を目指す。また、単なる観光や科学調査にとどまらず、月面基地の建設も視野に入れている。
その鍵を握るのが、「3Dプリント技術」だ。2023年には、ESA(欧州宇宙機関)が、月の砂「レゴリス」を建材に変換する実験に成功したという。つまり、「月にあるもので、月に家を建てる」未来が現実味を帯びてきているのだ。
さて、ここでちょっと一息。月にまつわる面白い雑学をいくつか紹介しよう。
たとえば、アポロ14号のミッションでは、宇宙飛行士が月面でゴルフをしたことをご存知だろうか?低重力のため、ボールは地球とは比べものにならない距離を飛んでいった。今もそのボールは、月のどこかに転がっているかもしれない。
あるいは、月面に残された「金のオリーブの枝」。これはアポロ11号の乗組員が置いた“平和の象徴”で、現在の価値に換算すると約1億円とも言われる、最も高価な“宇宙のゴミ”の一つだ。
「月の土地が買える」という話も一時期流行ったが、あれは完全にフェイク。月の所有権は国際条約で禁じられており、たとえ“証明書”をもらっても法的な効力はない。夢はあっても、実益はないのが現実だ。
では、なぜ民間企業は月に行かないのか?それも、答えはシンプル。「儲からないから」だ。
月の資源、とくに水(氷)は貴重だが、1トン採掘するのにかかるコストは数十億円とされている。しかも、採掘権や所有権についての国際的なルールも未整備。民間企業にとっては、法的リスクが大きすぎる。
ちなみに、SpaceXが日本人実業家の前澤友作氏を招いて月周遊旅行を予定していたが、2023年時点で延期されている。技術的課題がクリアできなかったためだ。夢はあっても、現実はまだ険しい。
それでも、未来は少しずつ動いている。
中国の嫦娥(じょうが)計画、ロシアの月探査復活、インドのチャンドラヤーン…。各国がそれぞれのアプローチで月を目指し始めている。月は再び、「人類の挑戦の場」として注目を集めているのだ。
最後に、こんな“宇宙ファンあるある”を。
「月面着陸は嘘だった」と主張する友人に、「じゃあ、なぜソ連はその嘘を暴かなかったの?」と聞いてみよう。アメリカの敵対国であるソ連が、NASAのインチキを暴いてやろうとしなかった時点で、その主張がどれだけ不自然か、伝わるはずだ。
月に行くという行為は、単なる技術の話ではない。政治の駆け引き、経済の重み、人類の夢と欲望。そのすべてが交錯する“人間の物語”なのだ。
次に月に人類が降り立つとき、それはきっと「かつてよりも賢く、そして謙虚になった人類」の第一歩になるだろう。今度は旗を立てるだけでなく、「未来に何を残すか」を考える旅になる。
夜空を見上げてみよう。あの静かな月の向こうで、また新たなドラマが始まろうとしている。
君が見るその光は、過去からのメッセージ。そして未来への呼びかけかもしれない。
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