宇宙飛行士の視力って、実はけっこう奥が深いんです。
宇宙に行くなんて、子どものころ夢見た人も多いですよね。でも、その夢を現実にするには、想像以上に厳しい「身体の条件」があるんです。その中でも、見落とされがちなのが“視力”。単なる「目がいい・悪い」って話じゃないんですよ。
というのも、宇宙飛行士は、極限の環境でミッションを遂行する存在。目のコンディションがほんの少しでも崩れると、操作ミスにつながったり、命に関わる判断に影響を与えたりする可能性があるからです。だからこそ、NASAやJAXAなど各国の宇宙機関では、視力に関してかなり詳細な基準が設けられています。
でも近年、その基準が少しずつ変わってきているのをご存じでしょうか?
そして、宇宙という特殊な環境が、視力そのものにどんな影響を与えるのか――そこには、私たちの想像を超えた“視覚の冒険”が広がっていました。
さて、あなたは目が良いほうですか?
それとも、メガネが手放せないタイプでしょうか?
もし後者なら、「もう宇宙飛行士の夢は無理か…」と諦めるのは、まだ早いかもしれません。
まずは、現在の視力基準からおさらいしてみましょう。
以前は、裸眼で1.0以上といったかなり厳しい基準が設けられていました。1960年代、アポロ計画のころなんかは、「メガネをかけている時点でアウト」なんて時代もあったほど。ジョン・グレンが選ばれた理由の一つは、「裸眼視力が完璧だったから」とも言われています。
しかし、技術の進化はこの常識を大きく変えました。今では、多くの宇宙機関で「矯正視力」での合格が認められています。
たとえば、JAXAの最新の募集要項によると、両眼での裸眼視力が0.1以上、矯正後に1.0以上という条件に緩和されています。NASAでも、視力が20/20、つまり日本の1.0に相当すればOK。しかも、訓練中に多少視力が落ちても、任務に支障がなければ続行可能なんだとか。
また、LASIKのような視力矯正手術を受けた人でも応募できるようになっており、術後の視力が安定していれば問題ないとされています。だいたい1年ほどの経過観察期間が必要になりますが、それをクリアすれば道は開けます。
つまり、今は「目が悪くても、ちゃんと対策していれば宇宙飛行士になれる」時代なんです。
ただし。
問題はここからです。
宇宙に行くことで、そもそも視力が落ちてしまうリスクがあるって、知っていましたか?
この謎めいた現象には、「宇宙飛行関連視神経症候群(SANS)」という名前がついています。
宇宙にいると重力がほとんどありませんよね。いわゆる「微小重力」の状態になるわけです。すると体内の体液がスーッと上半身、特に頭部へと偏ってしまう。すると、頭蓋内圧が上がり、眼球や視神経に余計なプレッシャーがかかるんです。
結果、視神経が腫れたり、網膜に変化が出たりして、視力が低下するケースが確認されているんです。
NASAの調査では、国際宇宙ステーション(ISS)に6か月以上滞在した宇宙飛行士のうち、なんと60%が視力の低下を経験したと報告されています。
具体的には、「読書がつらくなる」「文字がぼやけて見える」など、地球では考えにくいレベルの変化が起こることもあるそうです。
たとえば、NASAのスコット・ケリーは、ISSで1年間を過ごしたあと、地球に帰還した際に「視界がかすんで、細かい文字が読みにくくなっていた」と語っています。実際に診察を受けたところ、眼圧の変化や視神経の腫れが見られたそうで、SANSの典型的な症状だったと考えられています。
この問題、じつは火星探査などの長期ミッションでは特に深刻視されています。なにせ、片道だけで約半年。往復して火星の地表で活動する期間まで含めると、数年にわたって宇宙にいなければなりません。そこで視力に問題が起きたら、取り返しがつかないかもしれない――。
だから今、NASAをはじめ各宇宙機関では、眼科医や神経科学者と連携して対策を練っている最中なのです。
ところで、視力に関する宇宙の小ネタって、実は意外と面白いんですよ。
ISSでは定期的に視力検査が行われています。地球と同じような「視力表(Eチャート)」を使い、リアルタイムで地上の医師にデータを送信するんです。ちょっと想像してみてください。宇宙飛行士が無重力のなか、ぷかぷか浮かびながら「このE、どっち向いてる?」って首をかしげてる光景。なんだか微笑ましいですよね。
それから、微小重力ではコンタクトレンズがふわ~っと浮いてしまうこともあるとか。ある宇宙飛行士が目覚めた瞬間、「あれ? 片目が見えない!」と焦ったら、天井(というか、上方向の壁)にレンズがピタッとくっついていた…なんて笑い話も。
ちなみに、視力だけじゃなく色覚も重要なポイント。機械の配線やスイッチの識別をミスると、致命的なエラーにつながるからです。JAXAの野口聡一さんも、「訓練でいかに色の識別が大切かを痛感した」と語っていました。
さらに、動物実験では、宇宙空間に連れて行ったマウスにも視覚に関する変化が見られたとの報告があります。網膜の細胞がダメージを受けたり、視神経の構造に変化が起こったりと、人間と共通する可能性があると注目されているんですね。
結局のところ、宇宙飛行士の視力というテーマには、「技術進化による希望」と「宇宙環境による課題」という、ふたつの側面があります。
確かに今は、メガネやコンタクトがあっても宇宙を目指せる時代。でも、いざ宇宙に出てみると、その目がどこまで“もつ”のか、誰にもわからない部分があるんです。
だからこそ、多くのベテラン宇宙飛行士たちは、視力の問題をただの身体条件とは捉えていません。それは、宇宙と向き合う覚悟、そして「限界を受け入れながら適応する」ための、精神力や柔軟さの象徴でもあるのです。
宇宙に行くというのは、未知の世界に身体ごと飛び込むこと。
その中で“視る力”をどう守るか――それは、宇宙飛行士だけでなく、未来を見つめる私たち全員への問いでもあるのかもしれません。
さて、あなたなら、どんな視線で宇宙を見つめますか?
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